【前回記事を読む】WBC準決勝・侍ジャパンの奇跡を三世代で体感! 大谷翔平と村上宗隆が紡いだ劇的逆転劇
プロローグ 三代の観客 二〇二三年
メキシコ料理でWBC決勝進出を祝う
前年にペンシルバニア州のロースクールで一緒だった山本は、諭のライバル事務所に所属している切れ者弁護士だ。小柄で筋肉質。頭の回転が滅法速く、口達者で弁が立つ。酒量も半端ない。
「それにしても、侍ジャパンはメキシコの先発ピッチャーには手も足も出なかった。二度あることは……」と言いさす諭に、
山本は「サンドアル、みたいな名前だった(本当はサンドバル)。見事なカーブで三振の山だ。カーブでアウト」とニヤリと笑う。
「カーブアウトか。三年前を思い出すなぁ。S社のMBO(経営陣による買収)案件では、山本と完全に敵陣営だった。カーブアウト(事業切り離し)もあったな」
「S案件じゃ、諭の高校野球部の同期が苦労したそうじゃないか。今日の試合のように、最後の逆転打でひっくり返した」
若き弁護士同士のラリーの応酬に、テニスの試合の観客よろしく視線を右往左往させていた胖が業を煮やして口を挟む。
「俺たちもMBOで独立したからね。もっとも、親会社が潰れそうになって、沈没寸前の船から逃げ出した鼠みたいなものだった。ぎりぎりセーフ、何とか共倒れしなくて済んだ。ところでカーブアウトってなんだい?」
「会社が特定の事業を新会社として独立させることだよ。その案件に俺たちが敵味方の立場で関わった。守秘義務があるからそれ以上は勘弁してくれ」と諭は口を濁す。
一見、和気藹々(わきあいあい)とした会話の裏に、諭と山本はM&A(合併・買収)案件で丁々発止と渡り合った過去があった。S社というのは、諭の同期塚田駿平が勤めている会社らしい。とすると、胖が昔取材していた芝浦光学機械のことだろうか。