執務室へ帰るエレベーターの中で、石橋さんがKeiさんに、ぺこんと頭を下げた。

「今日は、上層部が本当に会社を変えたがっていること、強く感じました。それにわたし、個人的にどんなことを学びたいかといわれたら……わたし、毎日の通勤途中でスマホばかり見ているんです。日常の細部なんて、あまり感じ取っていませんでした」

「私だって似たようなもんだよ。こちらも楽しんでやろうよ」

おれはいままで本気で、データからこぼれ落ちるような、生活するひとびとや仲間の日常にひそむ、声なき声を知覚してきただろうか。それが必要ないのなら、おれの仕事はAIに代替可能だろう。

「ところで、石橋って、ギターでどんな音楽やっていたの?」

「えっ……パンクとか、グランジです」

ネイビー、おれたち、はみ出したがっているんだ。

次回更新は9月3日(水)、11時の予定です。

 

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