そのまま信用してしまう。打ち間違いとか、確認のための再計算はせずに、出てきた数字を信じて疑わないのだ。
赤字が続き、中御門家の夕食のおかずはメザシと漬物のどちらかひとつ。みそ汁がつく日は、創一は朝からワクワクしていた。そんな時期があった。
しかし、悪いことばかりではない。
─仕事の腕は折り紙付きで値引きの王様。寺院仏閣を補修する施主様たちの間では、そんな噂が立っていた。知る人ぞ知る宮大工。
腕が良い上に破格の値段。その結果、受注量はウナギ登り。創一の休みは正月とお盆の数日だけで忙しい毎日だった。そんなこともあり、決して裕福な家庭ではなかったが、家計は志保のコントロールにより回復した。
「俺が休みなく働いているから、お前たちは好きなことができるんだ。俺に感謝しなさい」
家庭の中をこの決めゼリフが日常的に舞っていた。志保はいつもうんうんと受け流していて、前に出るような発言はしなかった。
息子の遼は子供ながらに、父の創一が得ている信用は、母親の志保の支えがあってこそなのだと冷静に見ていた。夜遅くに見積書を見ている母親は、「また、違ってる」と不平を言いながらも、筆跡に注意しながら書き換えている。
「あたまでは、まつりばやしが、なりひびく」と、志保は静かに遼に語りかけた。
日曜日も休んだことがない創一は、週末になると、ちょくちょく遼を仕事場に連れ出していた。一緒に手伝ってくれる大工さんはお休みでも、棟梁は働いている。
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