「元々は不動産の営業をされていたんだけど、そこで身に付けた営業力と人脈で今はいろいろな事業をされてるよ。このバーはそのうちの一つだね」
「え、僕と同じ不動産の営業をされてたんですか?」
「そうだよ。たしか斎藤くんも不動産の営業だったよね」
「そうなんですよ。そんなにすごいオーナーさんだったらぜひ会ってみたいです」
「本当かい? ちょうどあと三〇分くらいしたらオーナーが来ることになってるんだけど、会ってみるかい?」
「ぜひお会いしたいです!」
僕は思わず身を乗り出した。クビになるかもしれないこの危機的状況を乗り切るために、藁にもすがる思いだった。どんな人かは知らないが、家の売り方を学ばせてもらおう。
それからオーナーがどんな人なのかを話していると、時間ちょうどくらいにその人が現れた。
カランカランとお店の入り口の扉が音を立てて開き、淡いジーパンに白シャツというラフな格好をした筋肉質の男性が入ってきた。三〇代後半だろうか。
「あ、オーナー、お疲れ様です」
「おう信也、ご苦労さま。調子はどうだ?」
「絶好調ですよ。オーナーもまた出版社からオファーがあったみたいですね」
「そうなんだよ。信也はいつも情報が早いな。実はまた若手営業マン向けに本を書いてほしいって頼まれてな」
「前に出版した本が売れましたからね。当然といえば当然ですよね。あ、そうそう、こちらのお客様とオーナーの話をしていたら、ぜひ会いたいって仰ってました」
急に話を振られて呑みかけていたウィスキーが変なところに入った。
「ぐっ……は、はじめまして、斎藤と申します。マスターからお話を聞きました。元々は不動産の営業をされていたんですよね」
「はじめまして、斎藤くん。金光です。そんなに大した事はないけどね。斎藤くんも不動産の営業をしてるの?」
初対面なのに物腰が柔らかく、引き込まれるような笑顔が素敵だった。
「そうなんです。実は、あまり売れていなくて、今月売れないとクビなんですよ」
「お! それはよっぽど売れてないんだね」と、金光さんは満面の笑顔で明るく言った。
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