まだセックスというワードに馴染みもなく、ある意味大人のベールに包まれた言葉だった。中学2年生はまだ性教育も恥ずかしい年頃だ。田舎育ちということもあり、他の生徒達も大人びたところはない。みんながみんな、ただ子どもだった。そんなことをしようという発想も浮かばない。

「なんや、お母さんの前やから言えへんのか?」

「いえ……、本当にしてないです」

「あんなぁ、この乳首の先っぽから何かしらの菌が入った可能性があるんよ。普通に生活しとったら、そういうことはあんまり起こらへんから。14やろ? ちょっと、今日色々検査してから帰ってもらうから」

(この人、私がそういうことをしたって、決めつけてる……)

後ろにいる母の顔が見られない。母親も、娘はそういうことをしたのかもしれないと思っているだろう。それを言えないでいるだけなのだろうと。昔から医師と教師への信頼はやけに厚く、言われたことはすべて鵜呑みにしてきた母親だ。母のことは嫌いではないが、そういう節があるのを目の当たりにするたび軽い絶望に突き落とされる。

「このあとの検査の流れは、ナースの方から説明するんで。検査の結果が出るから、また来週の火曜日に来てくれます? 予約は11:30に取ったんで」

「はい、大丈夫です」

母親がくるみの代わりに答えた。その日学校を休まなければならないのに、なにもくるみの意見は聞かれなかった。

診察室を出ると、母親は医師の後ろで待機していた看護師に呼ばれ次の説明を受けていた。大きな病院に来たこともくるみの記憶にあるうちにはなく、現状を飲み込めないままぼんやりと母親と看護師が話をしているのを眺めていた。

「水瀬くるみちゃん?」

声をかけてきたのは、さっき母親と一緒になって服をたくし上げた看護師だった。

「さっきの先生の言葉、本当にごめんなさいね。先生にも悪気があったわけじゃないんやけど、一応こういう病気のときはなにが病気の原因なんか知るためにああいうことを聞いてるんよ」

「はい……」