「そういうことにしとく。それで、どこに行くの?」

「反応うすっ! あ、そうだ言ってなかったね。柏木さんの花屋の近くにある、港町公園って知ってる?」

「ああ、行ったことはないけど、知ってる。確かバラ園がすごい所だっけ?」

「そうそう! 今ちょうどそのバラが見頃なんだよね! そこに行こうと思って。親花祭の絵、何描くか迷ってそうだったから、実際に綺麗な花を見たら何か思いつくかもしれないじゃん?」

確かに親花祭の絵については行き詰まっていたから、とてもありがたい。ただ迷っていることはあかりに話していなかったのに、バレていたことが少し悔しく感じた。

「いいね。バラってあんまり生で見たことないし、楽しみ」

「ほんとに? よかった。じゃあ早速行こうか!」

駅前のショッピングストリートは変わらず賑わっていて、電灯や花壇の側に設置されているスピーカーからはケルト音楽が流れ、人の活気に彩りを与えている。

SNSで人気のテイクアウト専門のコーヒーショップが最近この近くにできたからか、パブリックスペースには洒落た白縹(しろはなだ)色のカップを手に、談笑している一団を頻繁に見かけた。

諸方に置かれたプランター。それに植えられた花々を見ていて、とある疑問がふっと脳内で浮かび上がる。

「そういえば、今日は柏木さんのお店の手伝いないの? 基本的に土日は手伝いしてるんじゃなかったっけ?」

「いや、私も詳しくは教えてもらってないんだけど、最近柏木さん、体の調子があまり良くないみたいで……。お店もここ最近は休業してるから、手伝いもないの。今日もお店はやってないと思う」

「え! あの花屋がお休み?」

小さい頃から、あの花屋の休業を見たことがなかったから、僕は驚いた。「びっくりだよね。先月末、しばらくの期間入院するから店を休業するって柏木さんから直接言われてさ。

理由聞いたんだけど、持病が悪くなってしまって少し療養したいってことしか教えてくれなくて。その時は別に顔色が悪いようにも見えなかったけど、本当に心配でさ。今まで私を気遣って、辛い顔見せずに頑張ってくれてたのかなって思うと、胸がズキッて来るんだよね」

次回更新は8月8日(金)、21時の予定です。

 

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