『亜紀~、今日は楽しかったね~! あ、い、今ね、んんっ、正幸さんと気持ち良い事してるんだけど、亜紀も交ざらないかって彼が、あぁああ! はぁ、はぁ、気が向いたら電話して』
プツンとそこで切れた。
「ちょっと……もしかして今……シてたの……?」
何だか汚らわしく思えた。だって不倫だから。
「もう……勝手にやっててよ。私を巻き込まないで……」
それが本音だった。不倫なんてしていて良い事なんてあるはずがない。奥様にバレたら奥様が傷付く。そう考えれば、不倫なんてできないはずだ。
真由は『気持ち良い』状態の今が気に入っているんだろうけど、彼女だって傷付かないとは限らない。そう心配はするものの、やはり、首を突っ込みたくないという気持ちが強かった。
私の駄目なところだ。
お店は年中無休だから、私達はシフトで休みを取っている。一応週休二日だ。今週は火曜と木曜が休みという事で、木曜に彼氏である俊雄さんが有休をとるから会おうという話になった。いつもなら、会社を定時であがって、その後に一緒に食事というのが定番なのだけど、木曜には大事な話があると言って、有休を使って会う事になった。
有休をわざわざ使っての大事な話……もしかして、結婚に向けた話とか?
そんな風に気持ちは浮き足立ってしまっていた。
そして木曜日。待ち合わせの喫茶店でアイスココアを飲みながら俊雄さんを待っていると、時間ギリギリに俊雄さんが息を切らせてお店に入って来た。
「ごめん、亜紀。もう少し早く着く予定だったんだけど、ちょっと足止めされちゃって」
「足止め?」
「今日話す事に関係するんだけど……」
「とりあえず何か頼んだら?」
「そうだね。えーと、コーヒーにするか」
ウエイターに注文し、コーヒーが運ばれてきたところで、俊雄さんが真顔でジッと見詰めてきた。