翌日丈太郎は阿武隈急行電車の模型を持って走り回っていました。
「花嫁列車だ、花嫁列車に乗れるんだ」
丈太郎は嬉しさでいっぱいでした。2年前、好意を持っていた同級生がスカート姿で花嫁列車に乗って、隣の県へ引っ越してしまったことを思い出していました。
「友達と会えるといいな」
しかし、うるさいと顔をしかめた叔母の八重子が冷たく言いました。
「小学校6年生にもなって、家の中で走り回っているんじゃないよ」
八重子は北城河家の夫婦が行方不明になった後、2人の子供の面倒を見るためにこの家に来ましたが、家政婦のような扱いをされることがたびたびあり腹を立てていました。
叱られた丈太郎は八重子から離れて、淑子のそばに行きました。
「また八重子? 厳しすぎー」
淑子は八重子が嫌いでした。
「ヨッシー嬉しい、嬉しくない? もう成人式だから嬉しくないか」
「それは嬉しいけど、大人は準備があって大変なのよ」
そのとき、淑子の携帯が振動しました。
「もしもし、姫子。うん、うん、そう、ありがとう」
友人の綾奈小路姫子からダリアの花の折り紙をたくさん折ったとの話で、淑子は顔をほころばせていました。
丈太郎は花嫁列車のことだと思いました。
八重子が追いかけるように近くに来て、掃除をしながらいやみのように言いました。
「しかし、隣町の団圃(だんぽ)さんもお金持ちだか何だか知らないけど、花嫁を迎えるのに列車を仕立てるなんて、困ったもんだ」
「どうして? カッコイイじゃない」
と丈太郎は答えました。
「乗り遅れたらどうするのさ。花嫁にはいろいろ支度があるし、事情だってあるかもしれない。ところがどうだい。列車は時間通りに出発しないとまずいからね。万一遅れて、反対方向から別な電車がやってきて正面衝突なんて、そんなのいやだよ」
「八重子おばばはそんなこと考えていたのか」
「こら、またおばばって言ったね。ぶつよ」