【前回の記事を読む】「しかし、隣町の団圃さんもお金持ちだか何だか知らないけど、花嫁を迎えるのに列車を仕立てるなんて、困ったもんだ」

第1話 崖の上で啼(な)く猫とゲームの始まり

翌日、淑子の家で

淑子は八重子から離れようと2階のクローゼットに行くと、丈太郎も追いかけました。

三毛猫のねうぺが座布団に顎をこすり付けて背伸びをしています。

丈太郎は、淑子が「丈太郎には猫が憑(つ)いている」と、気味悪がっていることを思い出して、今は亡き父の思い出話をしました。

「将来動物と会話できるようになるんだぞーって」

「そんなことを? お父さん、他にはどんなことを?」

「『しき』が近くなると、動物の言葉がわかるって」

「へー。やっぱり、式が近いのね」

淑子はちょっとだけ笑顔になって言いました。

「きっと結婚式よ。団圃(だんぽ)さんから招待状来たし」

「招待状なの?」

丈太郎は真顔の淑子に、それ以上聞けませんでした。

淑子は黒猫の目の奥を見つめて心の中で話しかけました。

団圃団吾(だんぽだんご)さんは隣町の資産家の跡取り息子で、私より12歳上の31歳。結婚式の招待状が来てね。みんなも連れて引っ越しするからね。

7年前に淑子の父母が亡くなり、結婚や儀式的なことを相談する身寄りもなく、叔母の八重子とはいつも喧嘩ばかりで、団圃団吾氏との話も1人で進めていました。

黒猫ねうじと三毛猫ねうぺが淑子にすり寄ってきたので、淑子は話しかけました。

「この家は父と母が亡くなって悲しい思い出ばかり」

足元のねうじが話しかけてきました。

〈お父さんとお母さんは死んだのかい?〉

「7年前、津波にのまれて死んじゃったんだよ」

ねうじとねうぺが口を揃えて歌いました。

〈うそ~だよね。うそだよね~♬〉

淑子と丈太郎は2匹の猫が声を合わせたことに驚きました。

「えっ、いまなんて言ったの?」