三毛猫のねうぺが不思議なリズムで歌うのです。
〈本当のうそとうそのような本当~。真実に見えて真実じゃない~。本当とは思えないのに本当~。真実は1つなのだ~。……いやあ~本当は2つかな~うそ、3つかもね~♪〉
聞いたことのないメロディーと言葉に、淑子にはお告げのような感覚を覚えました。
黒猫のねうじも茶化して歌うのです。
〈また、わけわからんことを~。おまえが言うことは~~♬ 間違ってはいないが~正しくもない~~。正しいかと思えば~~、真実じゃあない~♪♫ うそのような真実を信じつつ~〉
淑子は父母の死を嘘だよねと言われて、座り込んでしまいました。
その後、淑子は気を取り直して和ダンスからたくさんある振袖を出してハンガーラックに並べていたので、八重子が玄関で誰かと話していることには気がつきませんでした。
「迷っちゃうわね、明日の花嫁列車に着ていく振袖」
北城河家代々の着物は大切に保管され、淑子はそれらの着物を並べてあでやかな文様を見ながら口ずさむのでした。
「束ね熨斗(のし)~♪ 扇(おおぎ)~♬ 薬玉(くすだま)~♩ 御所車(ごしょぐるま)~♬ 桜(さくら)~♪ 菱葵(ひしあおい)♪ 選びほうだい選べない♪ ~どれにしようかな♬」
父母が津波にさらわれてから7年。収入の道が途絶えて家を売却しないと借金が返せないけど、着物たちは連れていくからねと、淑子は並べた着物を優しく撫でました。
振袖を体にあてがう淑子に、丈太郎が聞いてきました。
「ねえ、お見合いの相手ってどんな人なの?」
「そうね、2度しか会っていないのよ」
「それで結婚しちゃうんだ」
丈太郎は驚きました。
「でもね、ラブレターが何通も来たのよ」
「えーほんと? 見せてよ」
「だめよ、見せない」
「ケチ。本当はもらっていないんじゃないの?」
「大人をからかうもんじゃないわ。それにね」
「まだあるの、団圃さんの秘密?」
「そうじゃなくてー。何でもない」
淑子は思い出していました。
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