親父が帰ってきた。

今岡純一(じゅんいち)、50歳。ごみ収集車の運転手だ。ごみ収集のことを語らせると1時間では終わらない。親父の影響なのか、俺は今でもごみ収集作業を見るのが好きだ。俺の小学校低学年の頃の趣味は、ごみ収集車を追いかけることだった。母さんと違って親父にはほとんど怒られた記憶はない。無口で見守るタイプだ。

親父は俺を見ると一冊のノートを無言で渡してきた。中を見るとワイドショーの内容やらドラマのあらすじやらが書いてある。

「何これ」

「父さんね、あなたがいつも見ているテレビや雑誌の内容、芸能ニュースなんかを書き留めていたのよ。これを読めば次の日にでも今まで通りに学校に行けるんじゃないかって」

母さんが代わりに説明する。俺が無罪で帰ってくるのを疑いもせず待ってくれていた両親がいた。

「蒼斗。親父さんもお袋さんもこんな感じってことで、明日から学校。久々に一緒に帰ろうぜ」

感傷に浸っている俺の肩を亮がポンと叩(たた)く。亮の後ろ姿、なんて温かい背中なんだろう。

「亮、ありがとう。ほんとありがとな」

俺の声は涙声だ。亮は親指を立てて帰っていった。

「蒼斗、今日はもうゆっくり休みなさい」

母さんも自然を装い、気遣ってくれている。いつもの友達、いつもの家族、いつもの家。普通の生活が大事だと留置所で理解したが、肌で感じるのとは雲泥の差だった。

 

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