「何言ってんだ? お前何もやってないんだろ? 胸張って帰ろうぜ。親父さんもお袋さんも絶対分かってくれるって。そういう人たちだから大丈夫」

亮は俺を一生懸命勇気づけてくれている。亮は俺の両親のことをとても慕ってくれている。両親と俺と亮の4人で出かけたこともある。この亮の何げない言葉は本当に心強い。

斜め前を歩く亮の横顔は凛々(りり)しく、俺よりずっと遠くを見ているようだ。

「ただいま」

自分の声が小さいと思った。

「おかえりなさい」

ほぼ真下を見ていて先に進めない。

「なに突っ立ってるの? 早くこっちにいらっしゃい」

奥から覗(のぞ)き込むように顔だけ出して母さんが呼ぶ。

今岡美和(みわ)48歳。ファミレスでパートをしている。人と関わるのが好きで、俺と違って話も上手だ。基本的には温厚な性格だが、怒ると怖い。

「あの、俺」

「家に帰ってくるのにそんな気を遣う人がいますか」

あなたの性格は分かっている、そう言うようにキッチンに行ってしまった。亮が先に入っていく。

「さっすが蒼斗のお母さん、いつも思うけど俺もこの家の子に生まれたかったなー」

「亮くんも大きくなったわね」

「もう18っすよ。大人、大人。ねえ、おばさん。今からでもこの家の住人になっていいっすか?」

おちゃらけた様子の亮がリビングであぐらをかいて背伸びをする。

「ええ、亮くんならいつでも歓迎よ」

亮が俺を見てニヤリとした気がする。この会話は安らぐ。徐々に気持ちが緩む。いつも通りの雰囲気を自然と出してくれている二人のお陰だ。

亮が母さんと学校生活の話をしている。

「で、ほんと数学の先生が字を書く姿がおかしくてさ」

「それじゃ、集中して勉強できないのは先生のせいってこと?」

「そういうこと」

ふざけた会話や何げない会話がこれほど幸せだとは思わなかった。ほとんど聞いているだけだが、しみじみとこの時間が嬉しい。

「蒼斗、帰ってるのか?」