校門を出てすぐ、クラス名簿をじっくりと見ながら歩いていた和也が奇声を上げた。
「うえ!」
「びっくりした……。どうしたん?」
「颯斗……。この名前って?」
「え……。まじで? 同姓同名だな」
「だよな? 別人? でも珍しい苗字だし」
上質な雰囲気を纏う象牙色の冊子に書かれていた名前は、〝小花あかり〟だった。
「矢崎くん! 皆木くん!」
思考するための暇は与えてもらえないようで、背後から聞き馴染みのある溌剌とした声が投げかけられた。和也が先に反応する。
「あかりちゃん! え、君も大安高校なの?」 和也の驚嘆や歓喜の入り交じる声に背中を押され、遅れて僕は振り返った。小花あかりはあの時と同じ、元気いっぱいの様子だ。嫌味を込めて。
「うん! 今日から大安高校に入学! さっきクラス名簿で二人を見つけて、嬉しくて探しちゃった! 中学は一緒になれなかったけど、高校は一緒だね!」
何かに怯えてでもいるのか、全てをかき消すように、大きく透き通った声で話す小花あかりは、普通に変な人だなと思った。が、揉めても面倒なのでその思いは言葉にせず嚥下した。
「いやあ! 住んでるとこが近いとはいえ、嬉しい偶然! これで新生活の緊張はしなくて済むね!」
「そんなワーワー話せるのに、緊張なんて一ミリもしないでしょ」
あっ!と思った時には既に遅かった。さっきまでは我慢していた。でもその苦行に脳が疲れて、僕の指令を待たずに言葉を出してしまった。断じて僕のせいではない。と思いたい。素直にごめんなさい。
「矢崎くん! 君は本当に失礼だね! 前も言ったでしょ? そんなんだから非モテ男子なんだよ!」
「いや、小花さんだって相当失礼だろ! だいたいっ」
「はいはいやめやめ! なんで二人はまた喧嘩始めるんだよ! 俺の身になってくれよ!」
和也がすかさず仲裁に入り事なきを得たが、僕と小花あかりはしばらくむっとした顔で互いに睨み合った。
そのまま成り行きで、三人一緒に家路に着いた。始終話は尽きることなく変わり、頬が攣(つ)りそうになるほど笑った。あまり期待はしていなかった高校という新生活も、こんな日々が続くなら悪くはないかなと、僕はほんのり期待した。
次回更新は7月27日(日)、21時の予定です。