ある春の日、友達カップルと私の3人で、若松駅近くで遊んでいた。
ポンポン船で帰ろうと思っていたのだが、最終便に乗り遅れてしまう。途方にくれ、屋根しかないポンポン船乗り場で朝を待つことにした。お金もほとんどなく、他にいい手段が思いつかなかった。
最初は楽しく話していたが、だんだん冗談も言えないほど寒くなる。
彼らは2人でくっついて何だか楽しそうだが、私はくっつく相手がいない! 足を組んだり、手をこすったり、自分で自分を温めるのに必死である。
深夜2時くらいになると手足の感覚がなくなってくる。ましてやそこは海沿いであり、海風が寒さに拍車をかけた。
あまりに寒いので、どこか暖かい場所を探そう、と歩いているうちに、小屋を見つけた。バスの待合室なのか、ベンチもある。入口の扉はないが、開いているのは海と反対側なので風よけにはなる。私たちはそこに入り、朝まで過ごした。
その小屋には海が見渡せる窓があり、遠くの明かりや船を見ながら、自分の運命を恨んだ。朝までの時間は途方もなく長い。本当に朝は来るのだろうか、とさえ思う。
何を伝えたいかといえば、こんな状況になっても家に帰りたくないということだ。母に迎えに来てもらおう、なんて全く思わなかったし、それだけは絶対に嫌だった。どんなにつらくても家よりましなのだ。
そんな夜を過ごしながらタバコを吸い始めるようになる。
初めて吸った時、喘息があるせいか、胸が締めつけられるように痛くなった。
でもそれが心地よかった。自分を痛めつけ、その実際の痛みで心の痛みを紛らわせる。
そしてそれを見て傷つく母をみるのが快感であった。
「あなたの子育ては間違っている」そう伝えたかった。
次回更新は7月15日(火)、21時の予定です。
👉『腐ったみかんが医者になった日[注目連載ピックアップ]』連載記事一覧はこちら
【イチオシ記事】一通のショートメール…45年前の初恋の人からだった。彼は私にとって初めての「男」で、そして、37年前に私を捨てた人だ
【注目記事】あの臭いは人間の腐った臭いで、自分は何日も死体の隣に寝ていた。隣家の換気口から異臭がし、管理会社に連絡すると...