目的地に着くと、それを待ち侘びていた、村人や村長、診療所の医師らが歓声を上げて出迎えてくれる。
たかちゃんが、背負っていた薬の箱を肩から下ろす。それを受け取り、感謝した村人から、
「ありがとう、これで直ぐに治療できる、小さな娘さんは村の命の恩人だ!」 と、涙ながらにとても感謝されていた。
それをお婆さんは、
「これしか能が無い子だから、感謝なんていらないよ!」
と、感謝する村人に、偏屈な言葉を返していた。
たかちゃんが運んでいたアンプルの薬は、主にペニシリンや、蝮の血清、カンフル薬にリンゲル液、破傷風治療用の血清など、まだ液体薬の主流な時代の代物ばかりだった。
肺炎や高熱で苦しむ子供や、村人たちは、薬を割らずに届けるたかちゃんに、どれほど感謝したか知れない。
そのため、当時、たかちゃんは、僻地で薬が届くのを待つ人たちから、貴重な薬を運ぶ少女として有名な存在だった。
僻地の各地に残る、薬運びの少女の話は、広く有名な話だが、大抵はたかちゃんの事だという。
たかちゃんは、人が喜ぶ姿を見て自分も嬉しく感じる子だったから、険しく苦しい道程でも、喜ぶ人の顔を見るために懸命に薬を運んだ。