孝介の実家から母親が寝込んだという知らせがあった。実家は兄夫婦が継いでおり、差し当たっての心配はないということだったが、週末の三連休に見舞うことにした。

連休の初日なので早めに家を出た。由布子は普段の登校時間より早いのに不満そうな表情も見せず、お気に入りのスポーツバッグを膝に乗せ、後部座席に収まっている。久しぶりの両親との遠出がうれしいのだろう。

やがてバッグの中から受験用の問題集を広げて書き込み始めた。

「由布子、あんまり根を詰めると車酔いするから……」

美智子の言葉にうーんというのんびりした返事が返ってきた。メーターの針が時速百キロを超える。

「そんなに急がなくても……」

美智子が呆れたようにつぶやくが、車を運転すると開放感があふれ出すのは美智子も同じだ。

高速から一般道に下りた。周囲の山や畑が懐かしく、空気も心地良い。帰ってきた……

これは孝介も美智子も同じ気持ちなのだ。

国道の途中に山並みを分け入るような大きな広場が現れた。まだ新しい建物がいくつか並んでいる。道路脇にそびえるような看板があった。

「道の駅・こうしゅう」

孝介は、へえ、こんなのができたんだとつぶやきながら、車を駐車場に入れた。広い駐車場、トイレ、レストラン、土産物、土地を紹介するコーナーでは物産展と販売。観光客は地場産業のところに集まっていた。

採りたての野菜がビニール袋やパックに小分けされ、生産者の名前が印刷されたカードが入っている。孝介はプチトマトのカードに同級生の名前を見つけた。

同姓同名かと手に取って眺めていると「おい!」と肩をたたかれた。振り向くと名前の本人だった。

何年ぶりだろう。

次回更新は7月18日(金)、19時の予定です。

 

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