Keiさんがビールグラスを片手に、記憶をかいつまんで話してくれる。クリエイターのジョージが、興味深そうに聴いている。
「確かに日常のことって、ちゃんと気にしていないかもしれない。その講師は、新しいメソッドを勉強する以前に、そもそも人間のセンシビリティが弱っているんじゃないかって、そう言っているんですよね」
「そういえば……あたしは最近、子どもたちのことが、ずっと気になっている。コロナ禍からリ・オープンになって、子どもたちが学校の行き帰りに、大勢で楽しそうにくっつきながら道を歩いているの。それは微笑ましいんだけど、なんだか、まわりのおじいさんとか自転車とか、ぜんぜん避けないのよ」
「オトナは、『すいません』とか『失礼』とか、まわりに声をかけ合わなくなっているな」
「ランチの行列店なのに、食べ終わってずっとスマホを見ているヤツ、増えてないか?」
「ラッシュ時間の通勤電車で、足を投げ出して座るひと、また復活したね」
「暴走するママチャリが、最近、スレスレで向かってくるような。もう、神技ですよ」
「いやぁ、暴走ママはまわりに気を使いなさいなんて、子どもには教えないだろう」
「そのうち日本のおもてなしも、すたれていくのかしら」
YOさんが常連を見回して言う。
「なんだよなんだよ。世間を気にしないで生きている人間が、コロナで増えちゃったのかい? 家に閉じこもり過ぎて、みんなおかしくなったのか?」
全員、やや下を向いてしまう。自分もなにか傲慢なことを、やらかしていないだろうか。
「まわりに気づく知覚センサーが壊れたら、どうやって治すの? 神経内科? 整体?」