駟(し)の隙(げき)を過ぐるが如し、息子の高校の卒業式。受付で卒業要覧などと一緒に一通の封書を渡された。封書の中のA4サイズの便箋には中央に四行だけ書かれていた。
「お父さんへ
たった一人で、
母親の分も教えていただき……
ありがとうございました」
「お世話になった人」への感謝の手紙だそうだ。息子らしい素朴な手紙である。
式では終始、涙で息子を見ることができなかった私。
私の人生はそう安々と一路順風とは、行かないのである。
胃癌の再発、今回の癌は厄介者で今までの盛り上がってくるものではなく、胃の組織の中に入り込んでくるものなのだ。内視鏡での切除は不可能と言われ、胃の全摘を余儀なくされた。術後、ステージⅡと言われる。
周囲からは相当驚かれて同情されたが私的には今までが今までなので特に衝撃を受けることも無く、淡々と手術までを過ごしていた。術後の後遺症の方が大変である。今も糖分の不安定からくるめまいや消化不良や眼の病に悩まされている、挙げるときりがない。
これからも平穏な人生を送れるとは思っていない。驚きの連続であろう。そう簡単に安穏無事の生活をさせるつもりを神様は持っていないのだろう。前世での行いが悪かったのかどうなのか、現世での帳尻を合わせるしかないのだと思っている。
「創作」した物語がいつの日か演劇などで立体化するのが今の私の「夢」である。多くの経験値や興味などから広がる一人十色の十を超える物語を命が続く限り「創作」していく。
「どんな時も、いつも心の中に、夢を持ちつづけたい」
おわり
本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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