その静まりも一瞬で、次に聞こえてきたのはマツナガさんの声だった。

「派手に躓いたけど大丈夫か?」

この時、自分が躓いて転んだことに気が付いた。

私はなんとかカウンター席に置いてある椅子に手を置き、チカラの反動で起き上がる。

「最近躓いて転ぶことが多くて」

「この左目の絆創膏も転んで」

マツナガさんに打ち明けた。

その日の夜、私は珍しくといっても週1のペースに落ち着いたが、ヒデジの店にいた。

一人になりたい気分だったので、家には帰らずに。

と、言っても落ち着く場所は、ヒデジの店しか思い浮かばずだ。

店は平日の夜にしては珍しく団体客が入っている。

落ち着きを求めてきたものの、店内には大音量でケツメイシのアルバムがフル尺で流れている。

ヒデジも団体客の対応に追われて慌ただしくしている。

THCに珍しく入った、アルバイトのケイコにレー●ンブ●イを注文し、私はタバコを口に咥え、動かなくなりつつある右手で器用にマッチに火を付け口をマッチに近づけた。

左手の人差し指と中指の間にタバコを挟み、親指の付け根の筋肉に目を向ける。

やはり凹んでいる。

先に右手に現れた症状が露骨に見えてきた。

箸が持てなくなるのに五年かかった。となると同じく五年後には、左手も …… 

今年で30歳だ。

五年後は35歳か。

それと同時に右手も、脚も終いには呼吸機能も落ちて進行していく。

正直五年後の私がまだ販売員を続けられてる、絵が浮かばない。