【前回記事を読む】ドキュンと来た。一目惚れだった。連れて帰って餌を出すと……おかしい。この子猫、サイトで調べた情報と全く違う

2 退化

市川 2012年

モリヤという猫を飼い始め、アユとの生活も落ち着いてきた頃、私はとうとう転んだ。

自宅でサッカー日本代表のワールドカップアジア予選の試合を見終わった後、不甲斐ない戦いに苛立っていたのか、宅飲みなど滅多にしない私が珍しく酒を呷っていた。

19時過ぎから呑み始めた私は、深夜1時を過ぎた頃には呂律も回っておらず、30分に一度のペースでトイレに向かう。呑んでは尿意の繰り返しだった。

さすがにアユからは「もう止めなよ」と忠告され、渋々それに従い最後のトイレに向かう。

その時、トイレ個室の隣に置いてある洗濯機に、脚をぶつけて頭から廊下の床に落ちた。

車のクラクションで飛び離れるように驚く私に、とっさに手が出せるはずもなく、左目の額近くから落ちた私。

衝撃はあったものの特に悶絶する痛さはなかったが、左目付近が、猛烈にジンジンし熱くなっている感覚があった。

倒れた物音にリビングから飛んできたアユは「あちゃー、出ちゃったわ」と言い、台所の台拭きを私の左目に当ててきた。その際、ピリッとした痛みの感覚を覚え、左目から離した台拭きには部分的に真っ赤に染まり、しばらくしてから、左目上部から真っ赤な血であろう液体が、ポタリポタリとトイレ前の床に落ち出した。

頭を打っているし、下手に動かすとマズイと考えたのか、アユは救急車を呼び、深夜、病院に運び込まれることになった。今回は私が救急車に運ばれている。

そう言えば3日後、姉貴の結婚式だったな。

目ん玉腫らして、行くんだろうな。

結婚式の写真に、一生残るのか。

生涯語り継がれるのかな。