「ニッポン! ニッポン!」。三歳の悠真は、エンジェルスの帽子をかぶり、顔の四倍もあるポップコーンを両手に持って、はしゃぐ。地鳴りのような大歓声。
グラウンドでは殊勲打のヒーローにチームメイトが群がり、もみくちゃになっている。メキシコのサポーターが諭の両肩をポンポンと叩いて握手を交わし、互いの健闘をたたえ合う。
試合途中、悠真を抱いて諭は球場で出会った有名選手とちゃっかり写真に収まっていた。「これ見てよ」と諭は得意顔でスマホ画面を示す。
胖が覗き込むと、日本のプロ球界からメジャーで活躍する投手と写真に収まっている。隣に映る外国人選手は、メジャーから日本に渡りホームランを量産し、今回のWBCではオランダ代表で出場している強打者のようだ。
誇らしげな諭を指差して「おやおや、諭が一番太っているんじゃないか」と胖が茶化す。
さらに「昔は大谷に似ていなくてもなかったのに、アメリカ滞在でビッグになったなぁ」と笑えば、諭は「まだ成長中なんだよ、いまは〇・一トンのゴジラ級を目指しているところさ」と冗談に付き合う。その望みは別の形で叶う。
その夜、諭はこんな夢を見た――ゴジラ松井と会えたのだ。なぜか、諭は高校時代のユニフォーム姿で背番号は3。
現役時代に果たせなかったレギュラーの番号だ。おまけにシュッとした体形。諭はニューヨークのヤンキー・スタジアムで、高校時代からの憧れのスラッガーと握手を交わしている。
背番号55のピンストライプのユニフォームをまとった松井と少しばかり会話を交わし、ツーショット撮影に応じてもらう。
松井・レギュラー・スリムと三つも大望を果たした、と両手を突き上げた瞬間、目が覚めた。しばし寝床でまどろみながら、松井の大きくて分厚く温かい掌てのひらの感触が忘れられない。