次の日が休日だった私は、深酒により運転手にルートを説明するのが億劫になっていたんだろうか、運転手は田町方面へと走り出す。
私が気付いた頃には、明治通りから既に恵比寿近辺へと向かっていた。このルートは春、道路脇に無数の桜が咲く。
私は都内で一番この桜並木が大好きだ。久しぶりに緑葉に覆われた並木道を眺め、来年の春はどんな想いをして見上げるのだろうか。そんなことを考えているうちに、見覚えのある24時間営業の業務用スーパーが見えてきた。
数ヶ月ぶりに見たスーパーは変わりなく、薄暗い明治通りをポツンと黄色い看板で照らしている。
その右隣には、かつて同棲していたマンションが並んでいる。
その風景が目に入った時、私はある子にメッセージを送っていた。
「久しぶり、元気か? 実はALSという病気になってしまった。驚かすつもりはなかったけど、伝えておくべきだと思ったのでメッセージ送った。無理せず体調に気を使ってね」
すぐに返信が来た。
「やめて」
数年ぶりのやり取りは、このような展開で始まった。
無意識なのだろうか、酒が回って昔に思いふけたのだろうか、メッセージを送っていた。
心配して欲しかったのか、側にいて欲しかったのか、分からない。
私の予想を上回る即レスだったため、メッセージを送った本人が返信に困っていた。
時刻は深夜3時を過ぎていた。
私は、その「やめて」の一言をどう返していいのか悩み、一晩寝かせるつもりだった。しかし着信が鳴る。
ディスプレイには「サエ」の2文字が映し出されている。