【前回記事を読む】筋電図という検査は拷問だった。ぶっとい針を直接筋肉にぶっ刺して、なおかつ「チカラを入れろ」と言われ、それを何十箇所も…

1 始動

芝 2011年

院内の面談室に通されて、老人の医師とその補佐であろう医師から伝えられた病名は、

運動ニューロン病

そんな名前聞いたこともないし、調べても出てこなかった。

医学的病名を伝えられないまま、淡々と、この後起こり得る身体の状況を説明される。

簡単にいうとこうだ。

「この後、何年かかるか何十年かかるかは個人差があるが、やがて全身が動かなくなり、呼吸も出来なくなる。気管切開をすれば生き延びることは出来ます」

そんなことより運動ニューロン病が気になり、絶対何か隠してるなと思ったが、冷静に話を聞いていた。

病室に戻り、ふと、冷静になり考えていた。

身体が動かなくなるということは、今の仕事も出来なくなる。病名は宣告されなかったが、重大な病気なのは分かった。

適齢期で、その時付き合ってた彼女と結婚し、仕事を当たり障りなくこなし、役職もつき上司と部下に挟まれながら、仕事の愚痴を呑み屋の亭主に溢(こぼ)し、東京の下町か神奈川辺りにマンションを購入し、ローンに追われる、そんな人生は歩めないということか。