【前回記事を読む】どこまでも続く甘美な世界。柔らかく流れる風、心地よいせせらぎの音…この栄華は永遠に終わることがないと思っていた

前編

物語は真珠色に輝く天使と漆黒に輝く天使が天空に現れたところから始まる。

ひとときの沈黙が流れた。ただならぬ不穏な雰囲気の中、天使たちは互いに背を向け、姿を消した。

突然大きな雷鳴が轟いたかと思うと大嵐が巻き起こり、安らぎに満ちた世界は暗闇の世界へと一変した。

大空は無数の純白の天使たちと漆黒の天使たちで覆いつくされ、私は今まで感じたことのないい恐怖と不安を覚えた。これから始まるであろう何か途方もないことが予感され、私の心は凍てついた。

その時、天が砕けるような轟音(ごうおん)が聞こえた。

天使たちは白黒に分かれて激しくぶつかり合った。ラッパの音を合図に矢が一斉に放たれた。互いに一歩も引かず、力の限り剣を振りかざして戦った。

削がれた羽が方々に飛び散り、肉が裂け、骨が砕けた。血の雨が降り注ぎ大地を真っ赤に染めた。息絶えた天使たちが次々に堕ちてきた。のどかで美しい風景が一転、阿鼻叫喚の地獄絵図となった。

ラッパの音もけたたましさを増し、戦いはさらに過熱していった。剣と剣がぶつかり合い、火のついた矢が飛び交った。

翼をもがれた者、腕を切り落とされた者、恐怖のあまり怯えた表情のまま息絶えた者たちの屍(しかばね)で、辺りは瞬く間に覆われていった―。何とも惨(むご)たらしい光景。

目の前で繰り広げられている壮絶な戦い。

私は驚きと恐怖で力が抜けてしまい、女神ガイアに支えられながら木の陰に隠れた。何があっても私はこの目に映るすべてを書き記し後世に残さねばならない。

無数の断末魔の叫び声が天空に響き渡った。私は初めて感じる恐怖に身体がこわばり、涙があふれた。女神ガイアも恐怖で震えていた。仲間同士の終わることのない殺戮(さつりく)―。虚しさが辺りに広がった。