私もいつものようにレー●ンブ●イを頼み一緒にテレビを見る。毎年、いやほぼ毎晩、このようなやり取りをもう5年近く続けていた。

途中レミオロメンが『粉雪』を歌い出すと、ヒデジもテレビに向かい熱唱し始める。甘い声とビブラートを効かせた、バブル世代の美声を浴びながら、私はタバコをふかす。右手はタバコを持つのが危うくなっている。

タバコを左手に持ち替え、マッチを擦り火を付ける。ライターの火さえ付けることが、出来なくなっていた私を見てヒデジは、

「マッチいいね~、マッチでーす!」と、しょうもないギャグを発していた。ヒデジはもう既にキマっていた。テレビでは徳永英明が『壊れかけのRadio』を歌っている。

ヒデジは先客に「私、徳永英明と一文字違いなんです」と擦り切れるほど、言い回しているツカミを語っていた。

それを横目に、2杯目のレー●ンブ●イと3本目のタバコに火を付ける。

ふと、まだ誰にも右手の症状をカミングアウトしていないことに、気付く。

ほぼ毎晩顔を合わせるヒデジにもだ。この一年のことが、去年の年末のことが一瞬でフラッシュバックしていった。

自分自身に「右手は大丈夫だ」と言い聞かせてきたけれども、言えないだけなのか?

カミングアウトする勇気が、タイミングが、分からないまま、緑茶ハイをヒデジに頼む私がいる。

このように、またアルコールで不安を掻き消し、同じことを繰り返していくのか。

自答自問しながらテレビでは、布施明が『マイ・ウェイ』を熱唱している。

次回更新は7月9日(水)、20時の予定です。

 

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