席に戻ると、男性陣の提案で席替えとなる。麻衣は積極的に動き、自分のお気に入りの男性の隣に座っている。お姉さんが少々気後れしていると、スポーツマンタイプの男性から声をかけられて横に座ることになった。

「白石さんでしたよね。俺みたいな年下ってダメですか?」

突然の質問に対して、平静を装(よそお)って無難な返答をする。

「そんなことはないです。精神的に大人であれば問題ありません」

「じゃあ、いろいろと質問しても良いですか? あなたに興味があるので……」

「えっ、私にですか?」

「はい。他の女性にはまったく興味がないんです。席に座った時から、あなたと話がしたかった」

「まあ、お上手ですね。本気にしちゃいますよ」

「実はね、俺は同僚から頼まれて数合わせのつもりで来たんです。だけど、今は来て良かったと本気で思っています」

お姉さんは男性の話し方を聞いて、少しずつ気持ちが傾きかけているのを感じていた。

「お仕事は何をされているのですか?」

問いかけられたが、ずっと緊張していたので彼の名前を覚えていない。仲間内でトシと呼ばれているみたいだがフルネームがわからない。黙っていると変な女と思われそうなので、とりあえずこたえた。

「親戚が経営するおみやげ店で働いています。高山の古い町並みの所ですが……ご存じですか?」

「テレビとかで見たことがあるけど、行ったことはないですね」

「あなたのお仕事を聞いてもよろしいですか?」

「あれっ、俺の名前って忘れちゃいました? 津田俊彦(つだとしひこ)と申します。仕事は父の会社を手伝っています。スポーツジムなんですけどね」

「それじゃ、お休みの日とかは平日なのかしら?」

「そうですね。比較的平日の休みが多いかも……白石さんはどうですか?」