「観光地にある店なので、土日の仕事が多いですね。親戚の店だから融通 (ゆうずう)はききますけど……事務仕事もあるので、特に決まった休みはないです」

「お休みが取れた時って、どうされているんですか?」

「特に何もしていなかったんですけど、3年くらい前から新しい趣味ができました」

お姉さんは、いつの間にか滑(なめ)らかな口調に(くちょう)なっている。

「どんな趣味か聞かせてくれませんか?」

どんな趣味ですかではなく、聞かせてくれませんかという問いかけに、お姉さんは心地よい気分になり会話が楽しくなってきた。

「ちょっと変わった趣味ですよ。灯台めぐりです」

「何だか高尚(こうしょう)な趣味って感じがしますね」

「津田さんは、参観灯台ってご存じですか?」

「サンカントウダイ? いいえ、聞いたことがありません」

会話に夢中になっていたお姉さんは、麻衣から何度か声をかけられて振り向く。

「あのさ、お話中のところごめんね。私たちさ、次の店に移るから、お二人はこのままどうぞ。支払いは済んでるから……じゃあね」

「ちょっと待ってよ。そんなこと言われても……」

お姉さんが立ち上がろうとすると、引き止めようとして津田がお姉さんの手首をつかんだ。お姉さんは一瞬驚いたが、津田のほうを見るとやさしそうな笑顔をしている。

『もしかしたら麻衣が仕組んだのかしら……』

そう思ったりしたが、フィーリングが合いそうな人なので成り行きに任せようと思った。

 

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