「いいの?」

少女は目を輝かせ僕を見つめる。僕は笑顔で大きく頷いてみせた。

「この子はね、駅の待合室で一人ぼっちだったの」

ふうねえちゃんは、へいちゃんの手を取り歩きだす。幼い二人を不憫に思い、気がつけば二人の後ろに付いて歩いていた。

「どこで寝ているんだい?」

僕が問いかけると、彼女は前を向いたまま、「上野の地下道」とだけ答えた。こんなに幼い子らが地下道で生活し、二人で支え合っていることに胸が締め付けられる。

ほどなくして上野の駅が見えてきた。ほとんど戦災の被害に遭わずに形を残している姿に胸を撫で下ろす。

だが、地下道に入った瞬間、厠(かわや)でもしないような大小便の強烈な臭いが鼻を突き、吐き気をもよおした。

他にも残飯や、何日も風呂に入っていないような体から出る悪臭が寄せ集められ、自分の鼻だけではなく、体中に染み込んでいくのではないかという嫌悪感を抱くほどだった。

だが、子供たちは悪臭の中を平然と歩いていく。

ふうねえちゃんは子供二人がやっと座れるような場所を見つけると、湿った新聞紙を敷いた。へいちゃんを座らせ、自分も腰を下ろす。

「ここで寝るのか?」

この子たちに他に行く場所などないことは分かっていたが、聞かずにはいられなかった。

二人は無言のまま、小さく頷いた。

次回更新は6月27日(金)、20時の予定です。

 

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