「そうか、お前も一人か」
子供の目線に合わせて膝を折る。すると彼は、両手のひらを上に向け僕に差し出した。
「食べもんが欲しいのか?」コクンと頷く。
今にも折れそうなほど細い腕に胸を痛め、僕は迷わず残しておいた一欠片(かけら)の芋と一粒のキャンディを小さな手のひらにのせた。
のせるやいなや、彼は芋の欠片を口の中に放り込んだ。唇が乾燥し、硬くなった皮の端から血が滲んでいる。
僕は水筒の蓋を開けると、ゆっくり彼の口元に当てた。水筒に小さな両手を添え喉を鳴らして水を飲む。その様子に胸が締め付けられる。
「へいちゃん! やっと見つけた」
背後から声がして振り向くと、へいちゃんより少し背丈の大きな子供が、僕の顔をじっと見つめている。
「君はこの子の兄弟?」
自分で切ったのか、前も後ろも不揃いな髪の長さで、男女の区別ができない。やはり顔は真っ黒だ。
「ふうねえちゃん」
へいちゃんが呼んで、やっと女の子だと分かる。汽車の中で、浮浪児の女の子は売られていると聞いた。きっと、この子も身の危険を感じて男児のふりをしているのだろう。
へいちゃんがズボンのポケットからキャンディを出し、「ふうねえちゃん、あげる」と、一粒しかないキャンディを差しだす。
僕は慌てて、最後の一粒を軍服のポケットから出し、ふうねえちゃんに渡した。