崩壊の始まり

流星スレに勢いで何行もロングデートの事や、特別好かれているなどという書き込みをした1週間後くらいに、真由子と流星は五反田で待ち合わせしてデートをしていた。

夕食を終えてホテルに向かう途中、真由子は突然、流星に話し掛けた。

「あのね、イケラブ掲示板ってあるよね、流星くん知ってる?」

「あっ、知ってます」

「あ、あれに花川流星くんの個人スレッドが出来てて、思わず私、流星くんといつもロングデートしてますって書いちゃった」

「えっ、本当に?」

そう言って黙り込んだ数十秒後、流星の顔からは笑顔が消えて、困惑の表情だけを浮かべていた。

真由子は、流星スレへの書き込みが、あまりにも浅はかな行為だとのちに痛いほど思い知らされるのだが、その告白がそれほどのダメージを流星に与えたとも気付かず、2人は以前に利用したホテルに入った。

シャワーをお互い浴びてから、通常のアロマオイルマッサージが、始まった。真由子が今夜パラダイスアロマの店舗じゃなく、五反田に流星を呼び出したのは、ホテルで流星に気兼ねなくイチャイチャ甘えるプレイがしたかったからだ。そしてその後に男女の関係があってもいい……と密かに期待していた。

マッサージコースの途中で、

「真由子さん、ちょっと腹筋頑張ってみましょう」冷静な口調で流星が言ってきた。

「ふ、腹筋をするんですか?」

「そうですよ、真由子さんはお腹を引き締めた方がいいでしょう」

不意をつかれた真由子は、流星に両足首を押さえられ、腹筋を始めた。

(……けっこう、キツい、久しぶりに腹筋してるから……でも何でこんな事させられるんだろう……いつもの流星なら、もうとっくにイチャイチャタイムなのに……)

真由子は、流星スパルタコーチに促され、やっとの思いで10回の腹筋を終えた。腹筋が終わって流星にもたれ掛かるように甘えてみると、流星は真由子から咄嗟に身体を離して、こう言った。

「エッチなことはもうしたくないです」

「えっ、そうなんだ、何で?」

「いろんなお客様を見たんで、それで……」

ホテルに着く前に、掲示板書き込みを流星に告白して地雷を踏んでしまったことも分からず、鈍感な真由子は、流星に他に気に入ったお客様が出来たのかしら? と思い落ち込んでしまった。

真由子は気を取り直して流星に、23時までの予約時間を30分延長出来ないかと打診してみたが、

「今夜は無理です。家に帰ってエンジニアの仕事の勉強をしたいので、読まなきゃいけない本があるんです」

流星は毅然とした態度で延長時間を断った。そして普通にアロマオイルマッサージと腹筋運動をさせられた真由子は、予約時間終了の23時で流星と五反田駅で別れたのだった。

流星はこの前の五反田駅での別れとは打って変わって名残惜しい様子は一切見せず、さっさと反対側のホームへの階段を、上がって消えていった。

五反田でのデートの夜にイケラブ掲示板への書き込みを流星にあっさり話して、すっかり流星からドン引きされた真由子だったが、それでも恋は盲目ゆえの鈍感体質を続けるのであった。流星にその後のLINEで真由子はもうイケラブ掲示板への書き込みはしないと約束をした。

この約束を、真由子はすぐに破ってしまう。掲示板書き込みの重大な影響をまだ深く考える事もない真由子だった。

次回更新は6月30日(月)、18時の予定です。

 

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