【前回の記事を読む】担当の応援スレをネットで発見。私以外のお客様とも、“それ以上”のことをしてるのかなぁ?
Chapter 2
パンドラの箱
真由子はたまらず、気がついたら自分も花川流星スレにコメントを書き入れていた。
『花川流星セラピストとこの前、新宿で、待ち合わせして長い時間デートしてめちゃ楽しかったです』
真由子はイケラブ掲示板の怖さをまったく知らない素人だった。パンドラの箱がそれであると気付かず、さらにコメントを重ねてしまう。
『花川流星くんは、オキニのお客様がいるみたいですねー、いつもロングで会ってるみたいだし……』
真由子は、自分で自分の存在を持ち上げた。
そのような書き込みを他客へのマウントという。(イケラブ用語)それを花川流星スレッドで何行か書き連ねた。するとにわかに、スレッド内が、ザワつき始めた。
『へー、新宿待ち合わせとか書いて身バレ気にしないんだ? 笑』
『なんか自分は特別とか書いているヒトいて笑うんだけど……アンタもう完成に身バレじゃん!』
真由子は何かに取り憑かれたように書き込みを何回か繰り返した。流星には特別お気に入りの私のようなお客がいる事を他の指名客に知らしめたい、その一心で複数回、書き込みをしてしまった。それがイケラブ掲示板というパンドラの箱であるのを、真由子は気付かず突き進んでいく。
その様相はまるでアダムとイブのイブが蛇にそそのかされ、知恵の樹の禁断の果実を取って食べてしまったかのようである。もしくは真由子はパンドラの箱の怖さを知らず開けてしまった……と言うべきか、いずれにせよその怖さを知らず開けてしまい、悲劇と地獄の苦しみへと足を滑らせ、これから堕ちていくのであった。
真由子57歳、年齢を重ねて分別が付く世代のはずなのに、現代のSNS社会の怖さを分かっていなかったというのが真由子最大の弱点であり、落ち度であった。
真由子のガチ恋は、盲目状態で危険な暴走を始めた。