第3章 脳梗塞のタイプ

◎その他の脳梗塞

脳動脈解離による脳梗塞

皆さんの周りに30~50代で、生活習慣病などなく、健康そうに見えるのに、突然脳梗塞になられた人はいないでしょうか? その人は、ヨガをしたり、咳をしたり、くしゃみをした後、また、頸部を無理に回旋するなど頸部マッサージやカイロプラクティックの後で脳梗塞になってはいませんか?

実は血管の壁は3層構造(内膜、中膜、外膜)になっています。血管はよく水道管に例えられますが、水道管を傷めないため内側に滑らかな2枚のテープ(内膜、中膜)が重ね張りしてあるような感じです。

動脈硬化とは、そのテープに傷がつき、そこにヘドロがくっついていくようなイメージです。

ヘドロでそこが詰まったり、ちぎれたヘドロが先に流れたりしていって詰まれば、今までお話ししてきたような動脈硬化に伴う脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞)が起こります。

ところで、これとは別にこの水道管内側のテープがささいなきっかけ(ヨガ、咳、など前述)で剝がれ、それによって、脳梗塞が生じることがあります(図1)。

これを血管解離による脳梗塞といい(図2、3)、若年世代に起こる脳梗塞としては最も多いと考えられています。

椎骨動脈という血管の解離では延髄部の梗塞の頻度が高く、めまい、しびれ、ものが飲み込めない、声がかれる、細目になるといった症状が突然現れます。

解離の仕方によっては動脈瘤という血管のこぶを形成し、くも膜下出血を生じることもあります。

動脈解離による脳梗塞の予後は比較的良好な場合が多く、解離も自然に改善することも多いので、動脈瘤ができていなければ内科的に治療(血圧管理、抗血栓療法など)を行います。

予防は困難ですが、咳、くしゃみ、ヨガ、力を入れた後などに急に起こる「めまい」は要注意ですので、おかしいと感じたら最寄りの脳神経の専門病院を受診してください。

[図1]動脈壁の3層構造と解離(黒い部分は壁内血腫)

[写真1]解離を生じた椎骨脳底動脈(左図:矢印)と延髄梗塞(右図:矢印)

[写真2]脳底動脈の壁解離(左図:矢印)と脳幹梗塞(右図:矢印) 50代女性。4日前一過性のふらつき、3日前回転性めまい、複視を来したが軽快。本日夕食準備中にめまい、嘔気、複視を来し救急来院。両側の眼球運動障害、右注視時に眼振増悪