こぢんまりとしたオフィスだが、アフリカでの七洋商事の海外駐在オフィスとしては大きい方だ。アルジェリアへの期待度が窺える。
一通りの紹介が済むと北山は大田原に、
「大田原さん、井原君にアルジェリアの概況と当オフィスの役割やビジネスの現状を説明してください」と指示というよりお願いのような口調で言った。ずい分紳士的な所長だな、と感じながら、井原は大田原に従って会議室へ移動した。
会議室には大きな楕円形のテーブルが真ん中にあり、周りに椅子が十二脚配置されている。窓は中庭に面しているので、街の喧騒はほとんど入ってこない。
壁には額に入った大きな地図が二枚貼られている。一つは世界地図、もう一つはアルジェリアの地図だ。
大田原が座り、
「君も座っていい」と勧めたので、井原は「失礼します」と断って対面に座った。
井原は大学時代アメラグをやっていたのでがっしりした身体だが、大田原も大学では相撲部にいたそうで、井原に負けない身体をしている。元々研修生は肩身が狭い立場だが、更に体育会系同士ということで井原の緊張度は否応なしに高まった。
そこにお茶くみのサルマおばさんが入ってきて、
「カフェ ウ テ?」(コーヒーですかティーですか?)と聞いた。大田原はカフェオレ」と言い井原に、「君はどっちがいいか? テはここではジャスミンティーだ」と言ったので、
「ああ、そうなんですか。それではジャスミンティーにします」と言って、
「デュ テ シルヴプレ」(ティーをお願いします)とサルマおばさんに頼んだ。
そのジャスミンティーは砂糖がたっぷり入っていてとても甘かったが、良いジャスミンの香りがした。
「おいしいですね、大田原さん」
「ちょっと甘すぎるだろう。次回から砂糖を少なく、とか、砂糖なしとか指定すればいい」大田原はそう言ってカフェオレを飲んで、ポケットからマールボロを一本取り出して煙草に火をつけた。そして深く喫って、フーッと口と鼻から煙を吐き出した。
井原は煙草の煙と匂いが好きではないが、もちろんやめてくれとは言えない。
大田原は一口二口喫うと、灰皿にもみ消した。もったいない。