もう12年以上前のことだ。おれがはじめて任された小ぶりな個店では、正社員とパートさんの間に、微妙な溝を感じていた。

顔を背けているわけではないが、お互いに感知し合うのを避けているような……どうにもムズムズして、勤務シフトをやりくりしながら、パートさんとおれたちが話すお茶会を企画した。テーマはない。

そんなものを設定したら、おざなりな連絡会や勉強会になってしまうのが目に見えたから。

はじめはみんな、モジモジと他人行儀だった。評判もイマイチ。でも、1年は絶対にやろうと決めて、粘って粘って続けていくうちに、みんな少しずつ井戸端会に慣れていった。

職種や職階を越えて、ひとりの人間としておおらかに世話ばなしをする。誰もが、下町のおばちゃん遺伝子を持っているのだ。

ある日、パートの島森さんが話をはじめた。お客さんの中に、買った商品のラップやプラ皿を全部はがして捨てて、ポリ袋に詰め直すひとたちがいるの。あたしはやらないけど、気持ちは、ちょっとわかる。

家でプラごみをいっぱい出すのが、いやなのよ。

そういうお客さんがいることは、他のスタッフも気づいていた……気づいたことを流さずに言いだしてみることが、けっこう大事なんだ。

一見、他愛のない話題が何気なくテーブルの上にのって、そこではじめて、みんなのヒントに昇華される。

考えてみれば、なんでもかんでも〈1パックいくら〉に仕立てすぎていたのかもしれない。

商品を手に取ったり、好きなだけ買い、エコに持って帰ってもらった方が、買い物は楽しいんじゃないか……そう、当時はサステナブルじゃなくて、エコっていう言葉だった。

次回更新は7月9日(水)、11時の予定です。

 

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