「試飲。これさえ乗り切れば、これさえ乗り切れば……」玲蓮は心の中で繰り返した。その後の料理には絶対の自信がある。北海道から到着したサフォーク種の羊肉も、ブルターニュから空輸されたオマール海老も最高のものだ。
会議を終えた長老たちが、特別室に案内されてきた。みな優しい笑顔だが、幼少からの苦難の数の分か、深いシワが刻まれ、本質を見抜くよう鍛錬されたその目は鋭かった。
8人の長老が席に着いた。温められた白磁の器が置かれるやいなや、給仕が銀のボール、金のボールに入ったスープをレードルで提供する。
白・赤のスープの試飲が始まった。玲蓮は最大の緊張の中で、長老の顔を窺った。
味見をした全員がうなずいている。やがて、長老の一人が代表するように玲蓮に質問した。
「何を使った?」長老はあくまで笑顔だ。
「……」
玲蓮は言葉に詰まった。ばれたのだろうか。恐怖が心臓を締め付ける。
「これは?」別の長老がペーパーを玲蓮の前に置いた。
それは仕入れリストで、いくつかの食材にラインマーカーが引かれていた。
「鮫姥(ウバザメ)のフカヒレ。100万円近い。しかも絶滅危惧種で売買は禁止されているはずだ。このフカヒレをスープに使ったのかね」
「いえ、あ、はい」思わぬ指摘に玲蓮は混乱し、しどろもどろになった。
長老が別のペーパーを玲蓮の前に広げた。貸借対照表だった。
「玲蓮、流動資産の額が飛び抜けて多い」
「それが?」玲蓮には指摘の意味がすぐにはわからなかった。
「資本効率が悪いということだ。高級食材の棚卸し額が尋常なレベルではない」
玲蓮はとっさに、とりつくろうように釈明を始めた。
「高額所得者をターゲットに、フォーシーズン満漢全食フェアを予定しています。本来4日かかる満漢全食を、季節で4回に分けて提供します。これで高級食材の在庫を処理できます、Web予約の状況も良好です」