「わたしが四歳の時に、父が大東亜戦争に行ってね。今は太平洋戦争と言われてるけど。わたしが子供の頃は、アジアを平和にする正義の戦争っていって、みんな大東亜戦争って言ってたのよ。

必ず死人が出る戦争で平和になるなんて、ありえないことなのに。皆一様に戦争で勝つことが国の平和のためだと、何かに洗脳されているみたいだった。

戦争に反対する人や、家族のそばにいたいと出征を拒む人は弱虫とか国の恥だとか言われて、家族まで暴力を振るわれる始末だった」

「今、そんなことで暴力を振るったら、その人たちが逮捕されるよ。それって犯罪だよ」

「そうね。当時は、勝ってくるぞと勇ましく出征して戦場で死ぬことが名誉で、生きて帰ってきたら恥とされていたの。せっかく生きて帰ってきても、家族まで非難されて自殺する人もいたのよ」

「理解できないよ……」

僕は言葉を失ってしまった。

ふくちゃんは、記憶にかかったもやを消すように、淡々と話し続ける。

「父が出征した時、わたしは四歳で弟はまだ二歳だった。父の顔も声も、抱き上げてくれた手のぬくもりも覚えていない。出征する時に撮った写真の中の父しか知らないの。そのたった一枚の写真も空襲で燃えてしまった」

「東京大空襲……」

呟くと、ふくちゃんは静かに頷いた。

「当時、国民学校の三年生から六年生までは、集団疎開で東京を離れたの。二年生だったわたしは、母や弟と一緒にいることができた。そして忘れたくても忘れられない――一九四四年の十一月頃からB29が落としたたくさんの焼夷弾で東京が焼け野原になって……。でも、その時はまだ母も弟も一緒にいて、空襲警報が鳴る度に防空壕に逃げ込んで、三人で抱き合って寒さを凌いでたわ」