【前回の記事を読む】彼の嘘? 嘘? 嘘? 嘘? 何の気なしにビデオレターを開くとそこに映っていたのは…

第1話 天空の苺

キッチンに戻りシードルのボトルを冷蔵庫に戻す。

「一仕事終わったらまた飲むの。キリキリに冷たくしておこう」

智子は一人暗いキッチンで呟くと、グラスを置いて螺旋階段を駆け上がった。

中央螺旋階段を上がり切ると、飛行船上部中央にある小室に出た。前後のファームに続くハッチがある。ここに飛行船の制御システムがあった。智子はマスターキーで部屋の側面にあるハッチを開いた。ぎっしりデバイスが組み込まれている。その機械の下部から無数の光ケーブルが床に向かって伸びていた。

智子は飛行船に向かって伸びる光ケーブルの中から必要な数本を、タグを読みながら見つけ出し選り分けてテープで止めた。

小室に装備されている工具箱から大きなボルトカッターを持ち出し、選り分けておいた光ケーブルを挟むと、思い切り力を込めてそれを切断した。バックアップの予備ケーブルも見つけ出して、それも切断した。

光ケーブルは飛行船の上部水素フローターにあるバルブの開閉を制御するもので、これでバルブを動かすことはできなくなった。つまり水素の放出ができなくなった。飛行船は地上にはもう戻ることができない。

孝太は怒るかもしれない。でも、かまいやしない。これで彼は私とここで生きるしかない。

智子は、一瞬、孝太がミナと肌を合わせていることを想像した。嫌悪と怒りと嫉妬が同時に溢れてきた。そんな想像と付き合って生きることは、孝太の怒りを浴びるよりも、100倍も1000倍もキツく耐えられないと思った。後悔はなかった。もしかしたら、被害妄想かもしれない。でも、妄想であったとしても、その妄想も耐えられない。