【前回の記事を読む】トイレから出てきた彼に続いて出てきた彼女。私は二人が目配せしたほんの一瞬を見逃さなかった。彼にしてはトイレが長かったような…
第1話 天空の苺
結局、孝太が戻ったのは明け方近くだった。智子はひどい二日酔いで、気に留める余裕はなかった。頭痛をこらえるうちに、また眠り込んだ。
智子は昼前に目が覚めたが、すぐにトイレに駆け込み嘔吐した。頭痛が治まらず、昨日の酒が本物か疑いベッドで悶々としてるうちに、午後2時ごろ孝太が目を覚ました。孝太は二日酔いしてなくて、3時ごろには出かけると智子に伝えた。
「何、どこに行くの」
「タケシのとこ」
「どうして」
「タケシの知り合いのプラント会社の人が俺の話を聞きたいんだって」
智子は、文句を言えなかった。
「それと、タケシとプラント会社の人とで今日も飲み会があるから、帰りは遅くなるから」
その夜、孝太は帰ってこなかった。だけれども智子はあまりに気にしなかった。タケシと入り浸りなのだろうと思って。
明日は離陸の日、智子は準備に忙しかった。操縦席のコンソールを確認するとメールが届いていた。タケシの一人息子ケンタからのビデオレターが添付されていた。智子は何の気なしにビデオレターを開いた。
「美味しい苺ありがとうございます」
少し痩せたケンタは、懸命に息を整えて笑顔を振り絞っているように見える。智子は胸が熱くなった。お礼を繰り返す健気なケンタを見て嬉しくなったが、一転、智子は愕然とした。画面がパンしてケンタの後ろにケンタのお爺さんとタケシの姿が映ったのだ。続くビデオメッセージに動揺を抑えることができなかった。
「今日、お父さんが、僕のために車で苺を届けてくれました」
孝太はタケシと会っていたはずでは? 長野はここから遠すぎる。孝太の嘘? 嘘? 嘘? 嘘? 孝太は昨晩誰と会ってたの? なんの確証もないが、智子はミナの顔を思い浮かべた。