「聞いたぞ。女性を助けて表彰されたんだって?」
大きな手で僕の頭を撫で回す。 僕はその手を払いのけながら、「その場に居合わせただけで、犯人を倒したのは彼だから」と、神八太郎を指さした。
「君か、一撃で暴漢をねじ伏せたっていう、つわものは」
春くんは、神八太郎の二の腕を鷲掴みする。
「鍛えてるな。高校生にしては立派な筋肉だ」
太郎は無表情のまま、ぶっきらぼうに頭を下げると、その場を離れた。
「春くん、また今度」
軽く手を振り、僕は神八太郎の後を追いかけた。
特に親しくなったわけでもないが、初めて彼を見た時、胸が締め付けられるような切なさを感じた。〝太郎〟という、前世の友と名前が同じであることも気になって仕方がなかった。
このまま別れることが名残惜しく感じられて、無意識に足が彼を追っていた。
「神八くん」
背後から声をかけると、彼がゆっくりと振り向いた。無表情の彼に見つめられ、心臓が激しく鼓動する。
「あの、えっと、よかったら連絡先を……」
言いかけたところで、彼の腹が大きく鳴った。
僕は咄嗟に、「これから家に来ない? 喫茶店なんだけど、食事ができるからさ。助けてくれたお礼におごるよ」と、彼を誘っていた。
「オムライス、ある?」
彼がおもむろに口を開く。
「ある! オムライスあるよ」
僕は嬉しくなり、彼に笑顔を向けた。
次回更新は6月18日(水)、21時の予定です。
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