それでも第一日目の夜くらいは、せっかくヴァンクーヴァーに来たのだから地元の食事でも、とホテル近くのレストランに入った。
ところがそのスープを飲んだ瞬間に、あのイギリスでの悪夢が甦った。なにしろ味付けは塩とコショウのみで、素の豆の味しかしない。
なるほどカナダでもケベック・シティーかモントリオールならともかく、ここはイギリス文化圏か、と遅まきながら思い知らされた。
またある時NHKの番組『COOL JAPAN 〜発掘!かっこいいニッポン〜』でサラリーマンの昼食を扱っていた。
日本のサラリーマン/ウーマンが毎日、今日はイタリアン、今日は中華、今日は和食と昼食を楽しんでいる。これを見た出演者の一人のイギリス人は「なぜ日本人たちはああして毎日昼食を変えるのだ」と疑問を呈していた。
そりゃそうだろ、あなたがたイギリス人は食事をガソリンくらいにしか考えていなくて、胃袋に燃料が入れば事足りるのだから、と合点したものだった。
思い出すのもおぞましいが、イギリス滞在中こんなこともあった。あるスーパーマーケットで、それはそれは美味しそうな春巻きが並べられていた。
このSpring Rollを一抹の不安を抱きながらも自宅に買って帰ると、自らの愚かさを思い知らされたのだった。外見は春巻きだが味は腹巻きみたいな途轍もない代物だった。
イギリスでは、こと食生活に関してはこんなことの連続だった。ローストビーフやハムそれにパンなど美味しくても、これらは素材そのものの味だから料理とは言えない。
または変にイギリス人が捏ねくり回さなかったからこそ、救われたのだとも言えるだろう。