まえがき

プレストレストコンクリートは,鉄筋,または無筋コンクリートに高強度鋼材によって圧縮力を導入し,部材の曲げや引張りに対して強度増加が得られることを特徴とするコンクリートである.

コンクリートが曲げや引張りに対して強くなれば,同等の鉄筋量を持つ部材よりも部材の厚さを低減できるほか,同等の断面形状であれば,鉄筋量を低減できるなどの点で有利な構造となる.

さらに,部材に突合わせなどの継手がある場合は,高強度鋼材の伸びにより,地震力などに対して復元性に優れた構造となる.この数々の優位性を持つコンクリートは,古くから橋梁の上部構造に用いられてきた.

近年では,数々の長大橋梁の建設に寄与しており,ますますその技術も進展している.また,橋梁分野にとどまらず,数々の工場製品にも応用され,建築のはりや柱,基礎杭,鉄道の枕木など,広範囲におよぶ普及がうかがえるところである.

一方で,同じく近年,都市部においては,地下のインフラ整備がめざましい.道路,鉄道,電力,ガス,水道,通信,上下水道など,様々な地下構造物が錯綜し,その輻ふく輳そう化が高まっている.

こうした都市地下構造物の建設には,シールド工法,開削工法,推進工法など,多種多様なトンネル工法が適用され,今日に至っている.

これらの地下構造物は,耐久性の観点から鉄筋コンクリート構造が適用されることが多いが,地盤条件によっては,その部材厚さが建設コストの負担になることも想像に難くない.

そこで,著者らは,分割された部材で構成される円形トンネルの主断面は,基本的に“はり”として設計されることに着目し,土圧や水圧の作用からの形状保持を目的として,都市トンネルの構造に橋梁分野ですでに豊富な実績のあるプレストレストコンクリートの適用を図ることを試みた.

長年にわたる技術研究開発の結果,場所打ちライニング工法(ECL 工法),シールド工法,推進工法の3つの都市トンネル工法に対して,ほぼ同様の原理により,プレストレストコンクリートが構造上,適用可能なことを確認し,うち後者2工法が実用化,工事実績を重ねるまでに至った.

本書は,著者らが過去に従事したプレストレストコンクリートを応用した都市トンネル工法の研究開発,実用化に際し,執筆,編集に関わった過去の工法研究会,現存の工法協会発行の技術資料,既発表の論文などを参考にし,すでに施工実績のある2工法について,技術的説明を補完するとともに,著者の所見を交えて編集したものである.

また,プレストレストコンクリート技術と都市トンネルの構造については,個別に公的な学会,協会発行の示方書などの内容をもとに,技術融合に関わる設計の考え方などをまとめて示した.

読者諸氏には,本書を通じて,都市トンネル工法におけるプレストレストコンクリートの有用性を十分ご理解いただけるものと信じている.また,今後,プレストレストコンクリート技術が都市トンネルのあらゆる分野に応用されることを願う次第である.

2023年1月 著者しるす