「正確には、今のお母さんの姿とお別れだ。魂は一旦天国に戻って、この世に生まれ変わる準備をしなくちゃいけない。準備ができたらまた、生まれ変わって会えるかもしれない。信じていれば、たとえ見た目が変わっても光と俺なら分かるはずだ」
父は真剣な眼差しで唇を噛んだ。
母も父の目に寄り添うようにコクンと頷く。
「お母さん、僕ずっと待ってるよ。だから必ず帰ってきてね。また一緒に彩雲を見ようね」
僕が念を押すと、母はうっすら笑みを浮かべ、僕の頬に手を当てた。手の感触はないが、ふわっと心地よく温かいぬくもりが伝わってくる。
僕は、頬から全身に伝わるそのぬくもりに、まるで母に抱かれているような心地よさを感じながら眠りについた。
「光……」
母の声が聞こえた気がして、ハッと目が覚めた。
「お母さん」
部屋の外に出たが、母の姿はない。向かいにある父と母の寝室にも入ってみたが、母の魂は、いなかった。父と一緒に飾り付けしたクリスマスツリーがベッドの横にポツンと置かれていた。
昨晩、父が二階から持ってきていたのだ。
母が見ることのなかったクリスマスツリー。
ふと、ツリーの下を見ると、あの大きな靴下の中にサンタさんからのプレゼントが入っていた。出してみると、楽しみにしていた合体ロボットだった。
僕の膝が床に落ち、目からは大粒の涙がこぼれ落ちた。
「お母さんは、きっと生まれ変わって戻ってくる」
父の言葉を思い出した。
僕はすっくと立ち上がり、自分の部屋に戻ると、机の引き出しから短冊を取り出した。
今年の七夕で余ったものだ。「おかあさんにあえますように」と願いを込めて書くと父の寝室に戻り、ツリーの枝にかけた。
そして、持ち主が現れず寂しそうにしていた合体ロボットと靴下をしっかりと胸に抱き、いつまでも母のぬくもりを感じていた
次回更新は6月14日(土)、21時の予定です。
【イチオシ記事】マッチングアプリで出会った男性と夜の11時に待ち合わせ。渡された紙コップを一気に飲み干してしまったところ、記憶がなくなり…
【注目記事】服も体も、真っ黒こげで病院に運ばれた私。「あれが奥さんです」と告げられた夫は、私が誰なのか判断がつかなかった