
第一部
第一章 心の路
─自分の宗教的感情および欲求を見ぬく勇気をもっている人間だけが真実に道徳的な人間であり真実に人間的な人間である(『「キリスト教の本質」に対する批判に答える』フォイエルバッハ)。
およそ人の世は虚構だ。わが日本国も例外ではなく虚構の国で、日本人ばかりではないが、虚構によって生死を繰り返し、虚構によって国は統治されている。
二〇世紀に宗教という虚構がいかほど人の生死を左右したか私は知らないが、宗教に代わる虚構として普遍的価値、例えば自由や人権などが提起されてきたけれども、それらは戦争の要因となった。と云うのは、普遍的価値は民族主義と世界統一主義という両虚構の間では真逆に解釈が可能だからだ。
つまり一つの歴史ある国家内で他の歴史ある異民族との共生はできないことを二十一世紀の私たちは体験した。
それゆえ、宗教という虚構と普遍的価値とを融和し、各民族が互いの歴史を尊重しあえるより現実性のある虚構を私たちは必要としている。私はそう考えて「心の路」を提案したいと思う。これはそのことをあなたに解ってもらいたくて書いた手紙だ。