はじめに
明治時代との出会いは『ある明治人の記録―会津人柴五郎の遺書』(石光真人編著、中央公論新社2017)である。
戊辰戦争さなか祖母・母・姉妹は自刃、父や兄たちは出征という困難をのりこえ生き抜いた7歳、柴五郎少年の記録である。涙ながらに読み心に残ったが、主人公のそれからを知らないままいつしか忘れていた。
それから20年、『日露戦争を演出した男モリソン』(ウッドハウス暎子著、新潮社2004)で、 北清事変さなかの北京で活躍する柴五郎に再会した。
主人公ロンドン・タイムス記者モリソンと力を合わせて活躍した砲兵中佐柴五郎がその人である。柴は英・仏・中国語も堪能で、米欧8ヵ国の居留民、北京在住の中国人に頼られ、※1義和団に包囲され窮地に陥った北京の街と住民を護った。
以来、柴五郎にはまり、伝記『明治の兄弟 柴太一郎・東海散士柴四朗・柴五郎』を著した。執筆にあたり、各地の資料館や図書館に通い、会津はもちろん京都をはじめ北海道函館から九州熊本まで赴いた。
その過程で幾多の明治人、その人物たちの友人知人を知った。さらに、「明治・大正・戦前の昭和」という時代そのものにも興味がわいた。
そこで“けやきのブログⅡ”を始めた。ついては、地域の図書館・国立国会図書館デジタルコレクションなどにお世話になりながらあれこれ書いた。この本は2021年度分、 52項をまとめたものである。
最初はたんに得た知識を紹介したいというだけであったが、いつしか登場人物に励まされているのに気づき、資料探しなどキツイときがあっても止められなくなった。
教科書に載っていない歴史人、活躍したのに無名、志半ばで斃(たお)れた人物を採りあげるのは、やり甲斐あって愉しい。いつしか、ブログ記事数は700を超えた。
ときに、子孫の方や同好の士からコメントがあり、その節はパソコンに一礼している。ブログは毎週更新しているが机に向かう前、窓を開けて季節の風に吹かれると気分良く集中できる。
季節の移り変わりを肌で感じつつ物語に入る。そんなこともあり、季節で分けてみた。お好みの季節からどうぞごらんください。
中井けやき
※1 北清事変・義和団:1900(明治33)年に発生した義和団の反乱事件。イギリス・ドイツ・ロシア・フランス・アメリカ・イタリア・オーストリア・日本の8ヵ国連合軍による鎮圧戦争。