コンコン、

「高山です」

「どうぞ、入って」

「失礼します」

「高山君、今日で最後だね。二十七年間、ご苦労様でした。ありがとうございました」と、社長が頭を下げている。驚いた。

「社長、頭を上げてください。私こそ、ここまで勤めさせて頂き感謝いたします。お世話になりました。本当にありがとうございました」

危ない、涙が出そうだ。

五時半になった。

「皆さん、今日までありがとうございました。お世話になりました」

会社を後にした。切なさなのか寂しさなのか分からない感情が……。玄関を出たら、涼真さんが車で待っていた。

「どうしたの?」

「終わるころかなと思って」

「ありがとう」

ウルウルしている。

「お疲れ様会しようね」

素敵なレストランで乾杯をしてくれた。嬉しくて涙が頬を伝わる。

「寂しいね。ごめんね。でも僕と新しい生活が待っているよ。僕だけの美樹になるね。 時々、仕事にやきもち焼いていたんだ」

「ええー、そうだったの?」

「恥ずかしいけどね。アハハハハ」

「でも、嬉しい」

さぁ、四月からは新生活。引っ越しの準備だ。

三月二十五日、お兄様と兄に保証人になってもらい、入籍をした。 涼真さん、役所を出たら大きな声で、

「やったー! 美樹がようやく、僕の妻になったー!」と叫んでいる。

嬉しいやら恥ずかしいやらで顔が赤くなる。 高山美樹になった。

 

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