「お呼びでしょうか」
「聞いたよ。通り魔を撃退したんだって?」
「えっ? 何で知っているんですか?」
「こちら、松山ホールディングス社長、松山社長」
「は、初めまして。高山です」
「高山さん、先日は本当に、本当にありがとうございました」
立って、深々と頭を下げている。
「えっ? 私は何かしましたか?」
「母を助けて頂きました。母が勇ましい女性で、強い男性だったと感謝していました。先程、ご主人様のヤナオリホールディングスにお礼に行きました。奥様がこちらにお勤めだと聞きましたので、どうしてもお礼と感謝を伝えたくて、アポも取らずに伺いました」
「わざわざ、恐縮です」
「それと、感謝と言っては変ですが、松山の印刷等はこちらでお願いする事に決めまし た」
「えっ? 本当ですか。ありがとうございます!」
「母は会社を立ち上げた時に、感謝を忘れてはいけないと話していました。高山さんのような社員がいる会社は信頼できるという事です」
お勤めも後、二週間。少し会社に恩返しができたかな。
毎週金曜日は送別会が入っている。振り返れば、苦しい事もあったが、同僚に恵まれていて、楽しい会社だった。
最後の出勤日です。朝出勤する時、切ない気持ちになった。でも、新しい生活が待っている。私は幸せだ。
「課長、おはようございます」
「おはよう」
「高山課長、おはようございます」
「はい、おはよう」
お世話になった部長へ最後の挨拶に行った。
「部長、おはようございます。最後の挨拶ですね」
「寂しいな~。引継ぎは終わったかな?」
「はい、終わっています」
「何かあったら連絡してもいいかな」
「ええ、いつでもいいです」
社長秘書が、
「高山課長、社長室へ」