第一章 カッサカサの女課長と若いお友達

入社二十六年目、ビ・リバー印刷会社。社員は三百名で、優良企業だ。待遇もいい。一人で生きるのに最高だ。自分で言うのも何だが、エリートコースに乗っているおばさんだ。

柳澤美樹。四十九歳。独身。

営業職、バリバリのお局様。周りは妻帯者、若い後輩達。何でも聞きに来る。自分で考えろよ、と言いたいがぐっとこらえて、「これはね……」と良い先輩面をする。

ようやく女性も管理職になれた。ところが、残業手当は無くなるし責任は重いわで課長になっていいのか、悪いのか分からない。最近では飲み会にも誘われない。

「課長、課長!」と呼ばれるけど仕事の尻拭い、残業の手伝い、資料の手直し、まるで雑用係だ。給料は少し上がったけど、まだ残業手当の方がいい。

酷い時はお客様の会社へ行き、納期を間違ったお詫びで深いおじぎ。はぁ~、何やっているんだろうとため息が出る。

転職しようにもこの年では採用されないと思うし、ストレスが溜まる。わぁ~!と大きな声を出したくなる。結婚だって、できる年でもない。来年で五十歳だ。怖いな~。

楽しみと言えば、最近見つけた隠れ家的なバー。ベーシックカラーの店内で暖かな色の照明、静かで一人でもため息がつける大人のお店だ。

席数も少ないし隣の人に気を使わない。成熟した男女の隠れ場所だ。あら、私も入っているわね。ウフフフ。

一人で飲むのが好き。気も使わず、好きな酎ハイとおつまみで二時間程度ゆっくりできる。週三回程度、通っている。

マスターが素敵なヘアスタイルでちょっとたれ目で爽やか系。しゃべりすぎず、無視されず、居心地がいい。