今回、マムシは自信あり気に答えた。
「真か!」
忠賢が驚きを持って質した。
「もし、差し障りが御座いませなんだら、汚く、むさ苦しい所ではございますが、作業を見て頂ける中で、仕上げてご覧見せまする」
マムシの言葉には、力が籠っていた。
「真じゃな!」
千晴が質した。
「実に」
マムシの答えは、そっけなくも自信に溢れていた。実際マムシは、嫁に、この刃物に関して、文句を垂(た)れられていた。
刀工とは
故に、実の事を云えば、マムシは、時間に余裕がある時を見計らって、女房の包丁も直す気でいた。従って、材料や燃料も全て、娘の百足に手配させていて、その物(材料)が、昨日中に、万端整っていた。
明日、自身の腕を荘園の司以下、彼等の前で披露出来る。という事は、自動的に隠岐へ同行する事を回避出来る算段(言い訳)でもあった。
『願ったりかなったりとはこの事じゃ』マムシは腹の中で、こう呟いていた。
マムシ殊、村主三太夫の作業場は、海から三里程離れた、山の麓の高台に面していた。横には湧水が湧いており、裏の山には、娘の百足の炭焼き小屋があった。
百足は父の命により、近くの川から砂鉄を二握(ふたにぎ)り程、集めて来ていた。又、炭小屋からは、三束の椚(くぬぎ)や樫(かし)等硬度の高い木材から作った炭を下ろして来ていた。
美しい顔に似合わず、この娘は力自慢でもあった。父は父で娘の砂鉄を既に僅かながら、一握りの小さい鑪(たたら)(玉鋼)の小板に加工し終えていた。