サラリーマンをしながらの執筆活動

――原さんは働きながら執筆をされていますが、どういうところにメリットとデメリットを感じていますか。

最大のデメリットは、あえて時間を作らないと書けないことですね。サラリーマンとしての業務は例えば頑張って徹夜すれば完了させることができたり、根性で乗り切れる面がありますが、小説の執筆は徹夜したところで出ないものは出ない。心と身体に余裕がないと難しいと感じています。

逆に、サラリーマンであることで得られる様々な社会経験は、多様なリアリズムを吸収できる機会でもあり、執筆のネタに役立つと思います。

――タイトル作成で気をつけたことはありますか。

タイトルはキャッチーで、興味を引くことがとても重要だと思っています。『小窓の王』というタイトルは、山を本格的にやっている方にはすぐにわかります。一方、一般の方にはなじみが無いと思うので、「これ何だろう?」と興味を持ってもらえると思いました。

――原さんご自身が遭難の危険に直面したことはありますか。

はい、クライミング中に墜落して怪我をしたことが2回程あります。それと北アルプス、黒部の上ノ廊下(黒部川の源流部を指す。経験者向けの沢登りのルートとなっている)で、下山予定日までに下山できないという遭難未遂騒ぎを起こしてしまったことがあります。

その際は、結局パーティー全員の能力を結集して自力で帰還しましたが、県警の方や山小屋等で構成される遭難対策協議会の方々、救助体制を取ってくれた山仲間や会社、家族には大変迷惑をかけてしまいました。

――その遭難未遂のときは、どのようにして帰還されたのですか。

「上ノ廊下」は水の増減によって難易度が大きく変わる場所で、この時は雨が1週間程断続的に降り続き、非常に危険な状態になりました。そんななか、まだ若かったこともあり一番難しい核心部に突っ込んではまってしまい、身動きがとれなくなってしまったんです。

下山予定日を過ぎていたため、富山県警のヘリコプターが出動してくださいました。結果的にヘリコプターには乗らずに下山したのですが、あの時は、本当にご迷惑をかけたと、申し訳なく思っています。

その時に、ピックアップする予定で飛んできたヘリコプターを間近で見たり、コミュニケーションをとったりした経験を参考にさせていただいています。

衝撃的な体験を回顧する原さん

 


【前編】では、約25年の歳月をかけて温めてきた『小窓の王』執筆の裏側と、原さん自身の山での危機一髪の体験談をお届けしました。

次回【後編】では、作品に込められた深いメッセージと創作の苦悩、そして今後の展望に迫ります。

【後編】は6/11(水)公開予定です。

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