第1章 債権者集会
そんなこと、どうでもよい
再生に向けて、「やるぞ!」と、気勢を上げているみんなの声が、今日も怒涛の如く松葉の耳に押し寄せて来る。
ありがたい。何とお前は幸せな男だ!という声も聞こえてくる。
松葉は、静かに目を閉じた。
まだ、あの熱気が松葉の体に籠っているかのように、体が火照っている。
ありがたい、何としても再生し、再建を果たし、恩返しをしなければならない。
しかし、果たして松葉にそれは可能なことなのか。一抹の不安が松葉の頭をよぎる。
誰にも相談できない。松葉は、一人逡巡した。今にも、松葉はその重圧に押し潰されそうだ。それに耐えかねて、全てを投げ出したい、という衝動にも駆られる。
松葉に、その責務を果たせる力が残されているだろうか。
そんなこと、どうでもいい!
やると決めたのは、他ならぬ松葉自身だろう。何をこの期に及んで、言っているのだ。
そんなこと、どうでもいい!
松葉の心に潜むもう一人の松葉が、怒鳴っている。
分かったよ。そうだな。行くしかないな。
今、松葉は切り立った峰の稜線を、一人で歩き始めた。
しかも、その細道は誰も通ったことのない未開の道だ。